――――いっそ本当の死を迎えちゃおうか
青年の長い指を飾る、天使の羽を模したような対の翼を象るリングに光が灯る。
――――バイバイ
*****
「な〜んてね。ウソウソv 殺したりしないよ」
抵抗できない程度に痛め付け、別室に捕らえた相手――ボンゴレの霧の守護者――の紺碧に似た黒色の長い髪を引き無理やり顔を上げさせて、ミルフィオーレを統べる白の首領はにこやかに笑み告げた。
「君にはまだ舞台に上がっててもらわなくちゃ。
僕から素敵な役をプレゼントするよ――――ボンゴレリングを携えた若きボンゴレ十代目を誘き寄せる為の餌っていう役を、ね。」
髪を掴む手に更に力を込めながら愉しそうに目を細めて白蘭は言葉を続ける。
「正チャンはまだ日本のボンゴレのアジト見つけられないみたいだけど、今
ボンゴレには君の大事な大事なクロームちゃんがいるし?」
ちょうど良いメッセンジャーになるよね〜♪
六道骸の能力を遮断してしまえば、その力の支配下にあるクロームへの影響力も消える――彼女の傍にいる人間には直ぐに六道骸の身に何か起こったのだと察することができるだろう。
つまりは骸とクロームの関係を利用して敢えてボンゴレに霧の守護者の危機を報せ、誘いをかけると言い放った白蘭に、それまで聞き役に徹していた青年は口を開いた。
「クフ…可笑しなことをいう」
冷たい床に倒れ伏し身体を起こすだけの力すらない状態ながらも骸は青の片目のみで一瞥を投げる。一方、その反応を見た白蘭は顔に喜色を浮かべた。
「お。やっと喋った!…骸クンてばせっかく遊んであげてんのに会話どころか呻き声一つ出してくれないんだもんなぁ」
言ってその場にしゃがみ、骸の瞳を覗き込むように顔を近付ける。一瞬だけ交差する、冷えた視線。
だが次の瞬間には仮面を被り直し、そこには見馴れた胡散臭い笑顔。
「まっいいや!今度はこっちが骸クンのお話聞いてあげる。一体何が可笑しいのかなぁ?」
「……僕らはボンゴレと五年も前に関係を絶っている。仮に貴方の言うように彼らがクロームと合流し僕の現状を知ったとしても…」
少々長めに喋っただけで血濡れの瞳が疼く。この器の右目の視力はもう駄目だろう…内心そんなことを考えるが、外にはおくびにも出さずに言葉を列ねる。
相手の態度はあくまで此方を揺さぶるためのポーズに過ぎない。
勝負は依然として続いているのだ。
「君達のボンゴレ狩りのお陰で弱体化している今の状況で、信用もない、戦力にもならない、そんな人間の為に…貴方がボンゴレの立場なら動きますか?」
「モチロン」
骸の皮肉めいた問いにあっさり頷き、次いで「僕なら切り捨てるよ、そんな役立たずの足手まとい。」とあっさりと答える。
「で・も! あのお優し〜いボンゴレ十代目の十年前だ。彼は仲間を見捨てるなんてできっこないでしょ?」
君の方がよく解ってるんじゃない?…ねぇ、『元』襲撃犯の、霧の守護者さん。
こてん、と首を傾げて訊ねるその仕種は無邪気な子供のそれに似ているが、その唇から発せられる音は毒々しい色を溶かしこんで空気を震わす。
「フフフ…それに」、問いかけに答える様子を見せない相手を気にすることなく青年はそれはそれは愉しそうに
哂う。
――――ボクは紡ぎだせるからね…“運命”を
その姿はまるで、