その泡沫の夢は、
――――はたして誰のものであるのか





ボンゴレに於いて、『霧』が実態の掴めない存在と言われている理由の一端は、初代の守護者だけがどんな人物だったのかほとんど伝わっていないせいである。
彼の人物がボンゴレのもとに居たのは初代ボンゴレがファミリーを設立した当初のみで、ボンゴレが大きくなる頃には既に何処かへ去ってしまったのではないか、むしろ初代には『霧』などいなかったのではともいわるほど謎の人物だったらしい。
ただ、名前や人種、性別、容姿、人柄…といった事項に関して詳細な記録は一切残っていないものの、ファミリーへもたらした業績とその使命のみが、とある記録文書の中に短く残っていたことから、確かに初代『霧』が存在していたことがわかっているのだという…

片っ端から過去の記録をあさってわかったことは、そんな噂程度のことだった。
突然始めた調べものに、仲間達は不思議そうな顔をしたが、それには含み笑い付きで「さて、なんででしょうね?」なんて答えて煙に巻いて。
本当は。自分でも理由なんてわかっていなかっただけだ。

ただ――ぽろぽろ、ぽろぽろ…まるで綻んだ隙間から落ちてくるみたいに。あるいは、頼りなくも浮かび上がってくる泡沫か。ある日を境に視るようになった、遠き、夢幻ゆめまぼろしの欠片に。

どこかで何かがざわめいていた。










「やあ。」
男はその場に全くそぐわないさわやかさで子供に声をかけてきた。
出来立ての、血と屍の舞台での初邂逅。



それからもその男は子供の前に同じ笑顔で度々現れた。



「お前、なまえは?」
「しらない。呼ぶ人もいないし必要ない。」
「ふぅん、――なら今度会うまでに何か考えておけよ。
次から俺が呼ぶとき不便だからさ」



「“骸”、ね。
確かに好きに名乗っていいと言ったのはこっちだけど、わざわざコレとは…」
「いつだってまわりには他人の骸が転がっているんだから、ぴったりの名前でしょう?」
「…まぁ、お前がいいなら別にかまわないがな。」



「ここはきっと大きくなる、きっとこの世界で頂点を獲るのもそれほど遠い未来じゃない。」
「その未来が貴方の望みですか?」
「さあ?わからないけど。俺は俺のやりたいようにやるだけさ。」



「貴方は一体、僕に何をさせたいのです」
「別に?俺は俺のしたいようにするだけだし、お前もお前のしたいようにすればいい」



「行くのか。」
「ええ、」
「そうか――じゃあな。」
ひらひら、軽く手を振って初めて会った時と同じ笑顔で見送られた最後の日。
それは、遠き誰かの泡沫の記憶。