澄みわたる青空、眩しいくらいの太陽。
なんて絶好の冒険日和!
忘れものはない?
――さぁ、冒険の旅の始まりだ――
第1幕‐1場‐物質のプレーン
臨海学校
(1)
ゆったりと余裕を持たせたデザインの上衣は厚手だけれど軽くて丈夫な生地、手首には金の腕輪、胸元で赤いスカーフを結んで茶色の革靴を履いて。
少女は薄桃色、少年は生成色。色違いで揃いの装束を身につけた子供達の身支度は、最後にやはり同じく揃いの大きな帽子を頭に乗せれば準備万端。
にこり。互いに笑い合って、彼らが居なければ人気の消える自宅にそれでも日課のあいさつを「いってきまーす!」と元気よくして出掛けていく。
「晴れてよかったね〜」
晴れやかな空を見上げて嬉しそうに笑うのは、金茶色の癖っ毛と碧の瞳を持つ少年。名をハーブ・アップルミントという。
彼の隣を歩く薄桃色の帽子の少女、肩口で外巻きにカールされた金髪に菫色の瞳を持った彼女は、シトラス・アップルミント。
共に14歳の、双子の姉弟である。
二人が向かっているのは、彼らが通う魔法学校・ウィルオウィスプ。
ウィルオウィスプはその名の通り、魔法について学ぶ学校だ。大陸に魔法をもたらしたと言われる大魔法使いグラン・ドラジェが校長を務め、地方各所から魔法使いの素質を持った子供達が集う。その中には校長自らが各地でスカウトしてきた才能ある子供達も数多く、大陸一の魔法使い養成機関と言っても過言ではないだろう。
コヴォマカ王国の王都に拠を構え、これまで数々の偉大な魔法使いを世に送り出してきた王立学校。
姉弟はそこで日々魔法を学ぶ魔法使いの卵なのである。
そして今日は、学校恒例の臨海学校の開校日。待ちに待った出発の日に相応しい晴天はより一層気持ちを高まらせるというものだ。
あれこれと楽しい想像に会話を弾ませながら学校に辿り着いた二人が、門をくぐったその時。
「シトラス〜〜〜〜!!」
ばびゅんっぽすっがしぃっ
遠くから名前を呼ばれたかと思った時には、既に物凄い素早さで側まで走って来た何かがシトラスに飛び込んでそのまま少女の腰元にしがみついていた。(ちなみに、ばびゅんっが走って来た音、ぽすっが飛び込んだ音、がしぃっがしがみついた音である。この一連の動作間には一瞬の間すら無い、流れるような見事な動きだった。)
「シトラス〜〜っ!待ってたっぴ助けてほしいっぴ〜!」
その『何か』は、依然少女にしがみついたまま繰り返し名前を呼び、泣き言を言い募る。
いきなりのことに双子の姉弟は揃って瞳をぱちくりさせて、それからシトラスの腰にしがみつくそれを見下ろした。
「っぴ!」と特有の語尾を付けて話すその正体は――茶色の毛並みにつやつやの黒い鼻、垂れた耳にふさふさのしっぽ――ヴォークス族の級友ピスタチオ。
ぴっ、ぴっ、と愚図るピスタチオの様子に、双子は彼のふさふさの毛並みを優しく撫でて問う。
「どうしたの?ピスタチオ」
「今日からキャンプだよ、君だって楽しみにしてたじゃないか」
ハーブが元気づけるつもりで言ったキャンプという単語に、けれどもますますピスタチオの心は沈下してしまった。
「オ、オイラ…キャンプには行けないっぴ。手紙がっ、落第してっ、届くと母ちゃんでっ、帰ってこいって、学校が補習に辞めさせられるっぴぃぃ〜〜っ!!」
途中から興奮しだしたピスタチオの説明は支離滅裂になり、終いには泣き出してしまう。
さっぱり事態が飲み込めない双子は困って顔を見合わせる。
「どーしたのかな〜、ピスタチオ…言ってる意味がサッパリだよ〜」
《むむ、なんと喧しいこと!シビレさせて黙らせよ!》
ハーブが小首を傾げていると、その目線の高さに突如、ぽぽん、軽い音とともに現れたモノが声高に告げる。偉そうに上からモノを言う態度の彼は美の精霊・パウダーだ。
《さあレッドローズを唱えるのだー!》
周囲の宝石をチカチカ瞬かせて麻痺効果のある攻撃呪文を催促してくる精霊に対して、一方の美の魔法使いはといえば「パウダー…そんなこと言っちゃ、めっ!」と腰に手をあてて、ぴっ!と人差し指を突き立ててみせる。まるで子どもをしかりつける親のようだ。
(…あ!そうだ。)
そんな1人と1体のやりとりをみていてピスタチオの相棒である木の精霊・スティックに事情を尋ねれば良いと思いついたシトラスは、泣き止まないピスタチオをエアに任せるとスティックを呼び出して話しはじめる。
…その横で、ピスタチオの顔にエアが正面から冷風を吹き付けていたり、それによってピスタチオの顔中に涙や鼻水が渇いて張りついていったりするのだが。残念ながらそれは気が付かれないまま、シトラスが話を聞き終えたころには、その毛並みは“ふさふさ”ではなく“かぴかぴ”になってしまっていた。
*****
それから時は過ぎて半刻ほど。現在ハーブ、シトラス、ピスタチオの3名が居るのは校内の禅部屋である。…と、そこに、
「ピスタチオ!!シトラス!ハーブ! なにやってんだ!?もうバスが来るぜ!!」
「今日からキャンプだぜ〜!!ワクワクしようぜ〜!!」
勢いよく戸を開けて金髪の少年が室内に飛び込んでくる。次いで、その後ろにフードを被った小さな男の子も続く。
その言葉から、その体から、ワクワクしてたまらないという気持ちを全面に溢れだしている2人の様子に、ピスタチオは羨ましい気に言葉を返す。
「オイラ、キャンプには行けないっぴ……。キャンプなんか行ってたら、オイラ落第するっぴ!!」
「はっはっは!!気にするなよ!! キルシュの兄貴なんか2回もダブってんだぜ!!どーってことねぇよ!!」
尊敬しているという兄貴分を貶していることにも気付かずに、そう言って笑うのはセサミ・アッシュポット。そんなセサミに「うるせぇっ!」と怒鳴る金髪の少年がキルシュ・ピンテールだ。
「つーか、ホントになにやってんだ?おまえら」
ピスタチオの目の前には補習に使用される魔動人形――ちなみにカラマリィという名前がつけられている――があるので、ピスタチオは補習にむけた練習中には違いないのだが。
――――何故かその隣には、木の精霊を大漁に侍らせたアップルミント姉弟。
ハーブは両手にポンポンを持ち。シトラスは右手にメガホンを、左手に『木魔法〜基礎から応用までこれ一冊!〜』と題された分厚い本を持っている。
キョトン。
「「見てのとーり、ピスタチオの特訓応援中だけど?」」
さすが双子と感心するべきか。タイミング・一字一句と違わぬユニゾンで答えが返ってきた。
ぎゃっ!何ヶ月振り?!(;)
今回、ラストでやっとゲームシナリオに入りました。
こんな調子で大丈夫かと自分でも思いますが、でも絶対続けますよノベライズ!(苦笑)
(update:2008.07.02)
Produced by 空空空,紫雲-murakumo-. No reproduction or republication without written permission.