「つーなー!ランボさんにお菓子よこすんだもんね!」
「…ただいま、ランボ。ハイハイ、ちょっと待ってろな〜」

学校から帰ってきたとたんに、ガハハとお馴染みの豪快な笑い声でもってオレに駆け寄ってくるのはモジャモジャ頭の子牛の子。
足下にしがみついておやつを催促するのも、もう見慣れた光景だ。
――ただし、今日は普段と違うところが一つ。

「うはははは〜!見ろツナ!今日のランボさんはホータイ牛お化けだじょ〜!!」

その言葉通り、ランボはいつものホルスタイン柄の上に全身ぐるぐると白い包帯を巻いていた。 ホータイお化けっていうか包帯男だろ…と内心で苦笑しながらランボを抱きかかえてやる。足にしがみつかれたままだと動きにくいし、上手く巻けなかったらしくほどけかけている包帯の先でも踏んでしまっては転びかねない…てか、確実にコケる予感がする。
リボーンに鍛えられて随分ましになってきたとはいえ、長年染み付いたダメツナっぷりはまだまだ治りそうにないオレこと沢田綱吉である。

「おかえり〜!ツナにぃ〜!」
「ツナさん!◎☆帰$□@!」

ランボを抱えたままリビングに向かうと、フゥ太とイーピンも駆け寄ってくる。
2人もランボ同様、ちょっとずつ普段と違った格好をしている。
フゥ太は黒いマントを肩にかけてランキングブックの代わりにコウモリのぬいぐるみを抱えているし、イーピンはチャイナ服は普段通りだけど、広いおでこにはぺらんとした縦長の長方形の紙を付けている。…吸血鬼とキョンシーといったところかな?

「ただいま。ふたりとも」

おかえりの挨拶を忘れないよいこの2人に笑って返事を返す。さすがにランボと違って行儀がいい。
…でもオレを見上げてくる4つの目はランボとそっくり同じ、待ち遠しそうに期待に満ちていて、思わず小さく笑ってしまった。
リビングにランボを下ろして、ちょっと待ってろよ、そう子供達に告げ、ダイニングに行く。昨日のうちに用意しておいたものを3つ持って引き返すと、3人は、待ってましたとばかりに顔を輝かせて声を揃えた。

「「「Trick or treat!」」」

――お菓子をくれないといたずらするぞ!
ハロウィンの決まり文句。…そう今日は10月31日、ハロウィン。だからランボ達はこんな格好をしているわけ。(ちなみに仮装は子供達の自作。本人達が自分でやりたいと言ったんだけど、この機にいろいろ着せ替える気だったらしくハルが面白いくらい落ち込んでた。)
我が家の居候の子供達は今夜(というか夕方だけど)仮装してお菓子を貰いに知り合いの家を周り歩く予定だ。
順番は、うちから始まって、今回の言い出しっぺであるハル、京子ちゃん、文句をいいつつ参加してくれた獄寺くん、最後に山本のところに言って、そのままハロウィンパーティー。
ちなみにリボーンは既に山本ん家だ。…あいつの目当てはお菓子より特上寿司らしい。
リボーンはお菓子貰いに行かないのかって訊いたら、あのニヒルな笑みで「ガキが喜ぶよーなモンでこのオレが満足するか」とか言ってやがった。
相変わらずかわいくないヤツ!ビアンキの特製ポイズンケーキでも食っとけ!
…しかし、そのビアンキはといえば、リボーンの「幻のかぼちゃでのみ作れるという伝説のパンプキンプリンが食いたい」というセリフを聞いた日から姿を見かけない。(幻だの伝説だのメチャクチャ嘘くさいんだけど…?!)
とりあえず仮装だけはばっちしキメてたリボーンはやっぱりコスプレマニアだと思う。

「はい、ハッピーハロウィン!」

お菓子をあげる側はこう言うのだとハルに教えられた通りの挨拶を言って、オレは黒とオレンジ色のリボンで結ばれたかわいらしい包みを子供達に差し出した。
中身はかぼちゃのパウンドケーキ。ハルと京子ちゃんがハロウィンにちなんだ形のクッキーを作るって言ってたから被らないようにオレはパウンドケーキにしてみたのだ。きれいに包装してくれたのは母さんだ。

「ヘッヘ〜ン!やったもんね!み〜んなランボさんのものだじょ!」
「あっ!」

一つずつ手渡そうとしたその直前、突然ランボがイーピンとフゥ太の分まで一緒に奪っていく。

「コラッ!ランボ!!」
「へ〜んだ!ダメツナになんかつかまんないもんね〜!」

すばっしっこくランボは庭に続く窓から外に出てしまう。
あ〜、もう!慌て追いかけると、追い付く前になぜか「ぐぴゃあ!」と叫び声が…コケでもしたのか?
見ると塀に登ったランボの傍に黄色い影。

「…て、ヒバード?!」

驚いているうちにヒバードはお菓子の包みをくわえて、そのまま飛び立って行っちゃった…。

「うわ〜ん!!ランボさんのお菓子〜ぃ!」

アイツが持ってっちゃった〜!と泣くランボに一応、欲張ろうとするからだ!と叱りつける。
ヒバードに横取りされるとは予想外とはいえ、もとはといえばランボもイーピン達の分まで横取りしようとしたのだから、こういうのを因果応報っていうんだろうか?
ぐずり続けるランボにため息をついて、家の中へ戻らせる。

「まだあるから大丈夫だって…」
「グズッ…ホントか?!」
「あぁ。…でも今度はヒトの分を取らないこと!2人にもちゃんと謝れよ!
 …約束できないヤツにはあげないからな!」

まだ有ると聞いたとたんにコロッと元気になるランボに釘を刺しておく。
ランボは絶対だと頷いて、急げとオレを急かす。…現金なんだからなぁ、もう!


約束通りランボが2人に謝り仲直りが済んでから、あらためて一人一人に包みを渡して送り出す。…けど。
――――最初からこんな調子で大丈夫かなぁ?
3人を見送りつつ、ちょっと不安になってしまうのだった。

「それにしても…」

ヒバードが飛び去っていった空を眺めて呟く。
お菓子を奪って行っちゃうなんて、

「ヒバード…よっぽどお腹空いてたのかな?」



HAPPY HALLOWEEN?
(あまいあまいお菓子をどうぞ?)



後日、学校で山本達とその時のことを話していたらヒバリさんに声をかけられた。
「その話、本当なの。」と話の真偽を確かめられて(質問してるはずなのになんで疑問形じゃないんだろう、とか、もしかしなくても自分のペットに変なもの食わせるなとか文句つけられるのだろうかヒバリさんならそんな理不尽もありえる気がする、とか考えつつ)嘘ついても後が怖いのでトンファーを食らう覚悟で正直に頷くと、なぜか咬み殺されずに応接室まで連行された。
そこで見せられたのは、あのときヒバードがランボから奪っていったお菓子包みの一つだった…元の形よりだいぶ悲惨な状態になってたけど。
それで、それと同じものが欲しいと言われて、よくわからないままに了承してしまったオレは、次の日、新たに作ったパウンドケーキを持っていった。
かぼちゃのやつはあの日のうちにみんな無くってしまったのと、かぼちゃがもう無かったこともあってバナナ味で代用したんだけど…何も言われなかったので、大丈夫だったみたいだ。多分。
…結局なんだったんだろう?


――――ちなみに。
あれ以降、ツナはたまにヒバリからお菓子を要求されるようになったことを報告しておくぞ。(BYリボーン)
ヒバード視点の補足話な、ツナ視点。でもこっちのほうがながかったりする。
もちろんパウンドケーキはツっ君のお手製ですよ。趣味です。(言い切った!)