ノートパソコンの画面上には、熱い勝負が繰り広げられ歓声が沸きあがる会場風景が映しだされている。最新技術が生み出す映像と音は媒体が小さなディスプレイであることなどものともせず、それどころか会場の熱気が画面を突き抜けて伝わってきそうな錯覚すら感じさせる程だ。
けれど、どれほどの迫力であろうと実際に熱気が伝わってくるはずもなく、オレは快適な室内で映像を見つめている。
余談だが、快適な空間に居ながら現場さながらの雰囲気を味わえる――――この実に素晴らしい体験を可能にしているのはボンゴレの企画開発部が新開発したコンピュータシステムで、オレはモニターも兼ねてこのノートパソコンを渡されていた。
試作段階の実験台……しかも今までの経験上ボンゴレ企画開発部の作るものにはあまりいい思い出がない。(一見普通なのに危ない兵器だったり、何のために作ったのかすら分らない怪しげな物体だったり。あとはリボーンの道楽としか思えない品々だとか。(というより殆どがコレである。ボンゴレ企画開発部はリボーンの御用達だ。))
なのではじめ渡された時は何かあるのではと疑っていたのだけれど、意外なことに今回はまともだったらしく多機能・高性能で使い勝手も良いためいまでは重宝している品である。
まあ、そんなわけでオレ、ツナこと沢田綱吉は、現在その機能を存分に発揮させてとあるスポーツを観戦中だった。


When I ask you, − side T −


「よ!ツナ。 何見てんだ?」

そんなオレに声を掛けてきたのは長身に黒髪短髪の爽やか少年。何時の間に入ってきたのか、部屋の扉近くに山本が立っていた。
山本はそのまま足を進めると机の脇を通り過ぎ椅子に座っているオレの隣までやってきた。そうして脇から画面を覗き込む。

「おっ野球じゃん!日本の高校野球か。これライブ?」
「ううん。ちょっと頼んで記録送ってもらったんだ、甲子園の決勝戦。」
 今年はすごかったらしいよ。決着つかなくて再試合だとか数十年ぶりの初勝利だとかメディアが騒いでてさー。
「甲子園かー。そういやそんな時期だっけな、日本は。」

そう言って笑う山本に、オレはそれまで向けていたままだったパソコンの画面から視線をはずし山本の方へと向ける。

「山本、今が高校野球の時期って憶えてなかったの?」

意外だと、そんな意味を込めた視線を送る。

「んー そーゆーわけでもねーけど…さすがにイタリアに来てもう3年目だしなー」
「………」

山本の言葉にオレは無言で視線を下げる。


……そう、もうイタリアに渡って3年になる。

中2の秋、ヴァリアーとのリング争奪戦が無事にオレ達の勝利で幕を閉じ、騒がしくも平和な日常が戻ってきた。…と思っていた。そんな日常が続いていくのだと、願っていたのだ。
けれど現実はそう甘い訳もなく、オレの思いなんて無視をして進んでいくもので。
中学を卒業後、オレ達はすぐに渡伊した。死ぬ気でイタリア語を覚えさせられたかと思えば、半年後にはイタリアの高校に入学。相変わらずのリボーンによる暴力的な指導も続いていて、気づけばドン・ボンゴレとしての知識と技を身に付けていく日々を送っている。(全くもって堪ったもんじゃない。)まだ九代目がトップに座しているけれど、もう既に何度か『裏の世界』へ出させられてもいた。

常に首から下げているボンゴレリングに服の上から軽く触れる。
このリングを手にしてからもうすぐ丸4年経つ。リボーンに出会った頃からみれば5年は過ぎている。
もう5年―――とも思う。だけど、あの頃オレ達はたった13のガキで、5年後の今は18だ。(誕生日が来てないから17?)とにかく17,8歳なんて日本にいれば目の前の画面の中の少年たち同様まだ高校生の年齢だ。


(――――山本は、本当にここにいて幸せ?)


いつもは頭の隅に追い遣って考えないようにしていても、時々考えてしまう。特にこうして同世代の、日本の、『普通』の子供を見てしまうと。

(山本は、本来ならあのこ達のようにあの場所に立って、大勢の人たちの歓声を受けていたかもしれないのに――――。)

きっと、いや、確実にそうなっていただろう。中学の頃、野球名門校への推薦は確実と言われていたし、彼は誰からも慕わる憧れの的だった。高校へ行ってもそれは変わらなかったに違いない。
だからこそ、オレは彼のその輝かしい未来を自分が摘み取ってしまったとそんな風に考えてしまう。オレの所為で―――実際には、はじめに山本に目を付けこんな所まで連れてきてしまったのはリボーンだし、イタリアに来ることひいてはファミリーに入ることを決めたのは山本自身で、それはいつもの勘違いでもない、きちんと理解と納得をした上でのことだったと本人の口から聞いている。けれどそれでも、(「オレの所為」なんて思うのは酷く傲慢で山本に対して非常に失礼なことと解っていても、)そう思ってしまう。
オレがマフィアなんてものに山本を巻き込まなければ、戻れなくなる前に遠ざけて、関わらせずにいれば。……その手を離せていたならば…山本は『普通』のままで、こんなトコロにいることもなくて。山本が振るのは刀ではなくバットで、その周りを飛び交うものはたまではなくたまで、立つ場所は――――光の中、だったはずで。



「…い おーい、ツナぁ? 黙り込んじまってどうしたんだ」

山本の声に思考の海から現実へと呼び戻される。
彼特有のさわやかな笑みを浮かべて「ん?」とオレを見下ろしている山本を再度じっと見つめる。
成長して青年ぽさが表れ始めたことを除けば、あの頃と変わらない。姿に限らず、山本は出会った頃とほとんど変わっていない。
だけど。

「―――ねえ、山本。」

ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「なんだ?」と聞き返す山本は変わらずの笑顔。
ほんの少しの躊躇いのあと、

「……ごめん。やっぱりなんでもないよ」

オレは言おうとした言葉を呑み込んだ。
イタリアの教育制度が良くわからないので嘘っぱち… orz
年度の開始は9月ですよね?なのでツナ達はこの時点で高校も卒業して、本格的にマフィアしはじめている、ということで宜しくお願いします。