まだ他者の保護下になければ生きていくことの出来ない幼い子供にとって、保護者である親は世界そのものであるといっても過言ではないだろう。子供は愛情という名の優しい真綿に包まれたちいさな世界の中で守られ育っていく。……けれども、ならば、愛情それを与えられないとすればどうなるのだろう。





  *****





ここに一人の少女が存在する。
彼女は“愛される”ということを知らない。
本来なら一番初めに“愛情”を与えてくれるはずの世界―――少女の親―――にとって、少女の存在は極めて希薄なものでしかなかったのだ。

母親というべき女は、男達に貢がせて得た金銭の一部を使い彼女を育てはしたけれどそこに何かしらあたたかな感情があったかどうかは知れない。
義理の父は連れ子である少女を無碍に扱うようなことはしなかったが、それは世間体というものを気にするが故のポーズであり、また、男自身にとって少女は単なる同居人に過ぎないものだったからだ。(否、仕事で殆んど家を空けている男にとって顔を合わせる機会も少なく会話らしい会話もしない相手であった少女の存在はそれ以下の認識だとしても不思議ではなかった。)
また、少女は本当の父親が誰かなんて知らないし、母親に尋ねたこともなかった。もし訊いてみたところで答えが得られるとも思えなかった。(面と向かって言われたことこそないものの、「欲しくて産んだ訳ではない」と言っているのを知らないわけではなかったのだから。)



そして、親という狭い囲いの外に待つ世界もまた少女に優しくは無かった。

世間の人間が少女の家庭の実態を知ったとしても大抵は見て見ぬふりをしたし、少女に同情する者がいたとしても結局はその心が真に少女を守るものであることはなかった。――――人は自分達と違うものを受け入れようとはしないから。
少女の中に異質をみた者たちは、上辺ではどう取り繕うともそれ以上関わろうとはしなかった。



少女には他の人にはないものを持っていた。
おそらくは生まれつきだろうそれは初め少女にとっては当たり前のことだった。
それが「普通の」人にはないものである――――つまり、自分は普通ではないのだと自覚したのはいつ頃だっただろうか。はっきりとしたことは憶えていないが小学校に上がる頃にはもう既にその自覚があったと記憶している。

そして、その頃にはもう他人ひとと関わることを諦めるようになっていた。

自身が周囲にとって異質なものだという自覚は少女を孤独に追い遣った。
少女を取り巻く世界にとって少女は不必要な存在だと―――存在を容認されていないのだと―――感じた。


(誰も必要としないのなら、どうしてわたしは生きているんだろう。)
(死んだならこんな思いもしないで済むのかな…。)


ただなんとなく、いつか訪れるはずの死を想って生きてきた。その時にこそ、世界から解放されるのだろうと。

だから、猫を助ける為に飛び出したときも、死んでしまうならそれでもいいかとは思っていた。










『あなた! 凪が交通事故で!!』
『おかげで商談がパーだ』
『―――もうダメらしいわ…助からないって』
『…――――血縁者の臓器を移植すればあるいは助かるかもと――――…』
『冗談じゃないわよ!!』
『―――誰もあの子がそこまでして生きることを望んじゃいない―――』
『―――――…俺は仕事に戻る 好きにしろ』


病院の集中治療室。普通なら聴こえるはずのない親達の会話が少女のもとまで届いていた。不思議と全部聞こえていた。これまでだってこんなことは無かったから、きっともう死が近いからなのだろう。

(……ほら、やっぱり愛されてなんかいなかった…)
ずっと前から分かりきっていたことだったから、悲しくなんてない。悲しくなんて。
いま心にある思いは、ただ、最後の最期までこんな事実を確かめなくてはいけないことにほんの少し寂寥のようなものを感じたのだ、きっと。

ああそういえば、
こんなときなのに、ふと以前に何かの本で読んだ言葉を思い出す。
たしか「愛するとはその存在を認め受け入れることである」、とそんなことが書いてあった。その時、自分は、ならば逆に愛されないということは存在の拒絶ということなのか考えた。
――――だとしたら、わたしは、わたしという存在を世界に拒絶されている、ということね…
そんな風に感想を持ったのだった気がする。


(でも、もう関係ないよね。)
(もう死ぬんだから……やっと、終わる。)





  *****





そして死を以って少女の孤独の人生は終りを告げ――――ることはなかった。

少女が死を受け入れようとしたそのとき、少女の前に一人の少年が現れたのだ。

右目に不思議な色と力を湛えたその人は、少女に生きる意味と存在の価値を与えた。
世界のすべてが拒絶したと思っていた自身の存在を「必要だ」と言ってくれた。
少女にとってはその言葉だけで十分だった。
その人がこれまでどんなことをしてきていても、これからどんなことをするのだとしても関係なかった。
彼についていこう。彼の力になりたい。

――――その為ならなんだってしよう。





そして少女は、それまでの全てを捨て去って
死の象徴――髑髏――を冠する新たな名を名乗る。
前半まるっきりオリジナルのようになってしまいました…orz まるで別作品。REBORN!じゃない。。。(汗)
本文には明記しませんでしたが、うちの凪ちゃんは霊感少女です。