ヒットマン編1 忠誠の方程式
ナミモリタウンのツナヨシくんはマフィア地方ではなかなかに名の知れたトレーナーです。
はじめは、ボンゴレ博士という著名な人物と知り合いであるということがきっかけで名前が知られるようになったのですが、やがて行く先々で数々のバトルに勝利し、各地のジムを次々と制覇していく少年とそのヒットマンたちの活躍が人伝に噂となって広がっていったのでした。
本人にその気はあまりありませんが、ゆくゆくはトレーナーの頂点『ドン』の名を冠することも夢ではないと言われ、数多くの期待と羨望、嫉妬等に溢れた日々を過ごしています。
そんなツナヨシくんの周りは毎日とても賑やか。
特に彼の手持ちヒットマンたちは、その誰もが個性豊かな面々です。

今回はそんなツナヨシくんの周囲を彩るヒットマン達のお話をしましょう。



忠誠の方程式
一番はじめにツナヨシくんの仲間になったのは、ゴクデラというヒットマンでした。

ゴクデラはツナヨシくんが大好きで、ツナヨシくんにとてもなついています。
どんなに遠くにいてもその優秀な嗅覚でツナヨシくんの居場所を見つけ出して、駆けつけます。
ツナヨシくんが名前を呼べば、嬉しそうに一吠えして元気な返事を返しますし、銀灰色のしっぽは歓びからパタパタと勢いよく振られます。
そんなご主人さま大好き!オーラを全身で表現するゴクデラは、一部の者達からは『忠犬』と呼ばれていたりもします。

けれども一方でゴクデラは、ツナヨシくん以外のものにはそれが人間だろうとヒットマンだろうと、そして自分よりも実力の上のものであろうとも、みんな一様に嫌っていました。
出会い頭に牙をむいて威嚇なんて当たり前、主人の敵と判断したものにはツナヨシくんが何か言うよりもはやく得意の爆発攻撃を仕掛けます。
旅の途中では、有名人なツナヨシくんを倒して名を上げようと企むトレーナーが現れることも多いので、その度にゴクデラは大活躍です。日々ご主人様をお守りするために研いている腕を披露します。
ですからツナヨシくんの周囲では爆発事件が日常茶飯事なのでした。


そして本日も変わりなく、元気に爆発音が響き渡ります。


『どーでしたか十代目!今日のオレの技!』
「あー、うん、今日も相変わらず盛大にやってくれちゃったねー…」

キラキラと輝く瞳で主人を振り返るゴクデラにツナヨシくんは、今日もの『も』の部分を強調しつつ曖昧に相槌を打ちます。
その目は遠くのどこかを見ていて心なしか口許はひきつっているのですが、それには気付かずにゴクデラは褒められたと照れつつ喜びました。

『へへ! まぁ、こんなヤツラ十代目の敵でもなんでもありませんよ!なんといってもアナタはいずれ十代目の「ドン」を引き継ぐお方っスからね!』

ニカッと牙を見せて無邪気に笑うゴクデラの言う『ドン』とは、地方で一番強い最強のトレーナーのみが名乗れる称号です。
現在のマフィア地方のドンは九人目であるため、次のドンを引き継ぐ主人(ツナヨシ)は十番目、すなわち十代目ドンである―――ということから、ゴクデラはツナヨシくんを「十代目」と呼んでいるのでした。
…と、いっても、ツナヨシくんはまだドンを継いだわけではありませんし、別に次のドンはツナヨシくんに決まっているわけでもありません。
何よりツナヨシくん本人にはその気はまったくありません。
勝手にゴクデラが言い出し、言い続けているだけでした――だけ、のはずでした。

しかし、何がどう転ぶのかわからないのが人生というものです。

旅に出たばかりのころ、争い事を嫌いなるべく目立たずに過ごしたいと考えていた(というか基本的に何に対しても逃げ腰な性格の)ツナヨシくんは極力バトルやトラブルなどは避けて通ろうと心掛けていました。
しかし一方のゴクデラは、ツナヨシくんの素晴らしさをよく分かっていました(ゴクデラ基準でツナヨシくんは世界一素晴らしいご主人様です。)し、それをもっとまわりに知らしめて然るべきと考えていました。
だからゴクデラは(ツナヨシくんに言われてもいないのに)率先して敵を得意の爆発攻撃でやっつけていきました。
…というのも、ツナヨシくんのトレーナーとしての実力を示すには、数多くのバトルに勝利するのが手っ取り早いと考えたからです。
その考えはあながち間違っておらず、ゴクデラが勝手に戦っては勝ち、戦っては勝ち…(その他にもいろいろありましたがそれはまた別の折に触れてお話ししましょう。)
気がつけばいつの間にやらツナヨシくんは彼の望みとは裏腹に凄腕トレーナーとして世間に知れ渡るようになっていたのです。
今ではゴクデラだけでなくお茶の間のみなさまの間でも「次のドンはきっと彼だろうなぁ。」なんて、ほのぼのと話題に上げられるようになっているツナヨシくんなのでありました。

『オレも他のヤツラもだいぶレベル上がってきましたし、めぼしいトレーナーはだいたいやっつけましたしね〜!
 十代目がドンを名乗る日も近いですよ!!』

楽しみだなぁ、素敵だろうなぁ十代目の晴れ姿!はやくみたいっス!…気のはやいことに主人がドンを襲名した時のことを想像して興奮気味なヒットマンもとなりで、話中の張本人はといえば、

「(だから、ドンになんかならないって、言ってるのに!……言い続けてるのに…!)」

主人であるはずの自分の言葉に聞く耳を持ってもらえない理不尽さに、ガクリと肩を落として項垂れていました。

(オレは、平凡に過ごしたいんだってばーーーっ!!)

心の内でのみ叫ばれるその想いは、実際には受け止めてくれるものなどいるはずもなく…



『ま、諦めるんだな、ダメツナ。』

…いえ、遠く離れた故郷の街の湖の神様のもとにだけはしっかり届いたようでしたが。
それでも、神様はただニヤリと笑って見守るのみでしたので…



やはりその叫びは虚しく響き渡るだけなのでした。


尊敬×剰忠義=ありがた迷惑