「無理です!」
その人が告げた突然の要望に対して、綱吉は全身全霊で断った。即答。
しかし、相手はその返答がお気に召さなかったらしく、一瞬、目を眇たあと無言で愛用の武器を突き出してきた。
「ひぃぃっ!(問答無用ーーー!?)」
流石は最強にして最凶の男、並中風紀委員長、雲雀恭弥。自分から尋ねておきながらこちらの返答など関係ないらしい。まさに唯我独尊を体現したような人である。
「ちょ、まっ!待ってください!」
ムリムリ!ほんと!!絶ぇっ対無理ですってば!
ヒュンヒュンと空気を切り裂く音と風圧をすぐ間近に感じながら、必死で訴える。が、返ってるのは当然の如く、否。
「やだ。待たない。」
(やだって子供かよーー!?)綱吉は内心突っ込んだ。しかし直接それを口にするなど目の前の相手にできない。怖すぎる。
「だいたい何が無理だっていうの、」
「なに、って、えーとその…「はっきり言いなよ、咬み殺すよ」
「っ!言います言いますー! だから速度上げないで!!ていうか攻撃止めてください〜っ」
「で?」
「(シカトー!?)…いまリボーンいないですしっ」
「赤ん坊?関係ないでしょ」
「ありますよっ!!?―――死ぬ気弾なくちゃオレ、めちゃ弱ですもん!!」
だってダメツナだからと言い放つ後輩に、雲雀は動きを停止した。
左頬すれすれでピタリと止まった金属棒に肝を冷やしつつ攻撃が止んだことにほっと息を吐く。
そして綱吉はチャンスとばかりにその場から一目散に逃げ出した。
*****
「た、助かった〜!」
完全に雲雀から逃げ切れたことを確認して綱吉は安堵する。
「それにしても、一体ヒバリさんてば急にどうしちゃったんだろう?」
おかげで助かったからこっちとしてはいいんだけど。
そもそも、綱吉にはことの発端からして謎だ。ただ偶然雲雀と出くわしただけのはずだったのに。
『珍しく群れてないんだね。』
『、ヒバリさん!こんにちは』
『ふーん、君、暇そうだね。』
『は?いえ…』
『僕もちょうど暇してたんだよ。そこら辺の群れでも咬み殺しに行こうかと思ってたんだけど…』
『(さらりと物騒なこといってるー!)』
『君でいいや。…ねぇ、僕の暇潰しに付き合ってよ』
『えっ!!?(嫌な予感ーっ)』
『勿論ほんのお遊びだからね手加減はするよ。どう?
―――僕と手合わせしない?』
…そうして冒頭に繋がるのだが。
「ほんとなに考えてるんだろヒバリさん。わけわかんねー。」
しきりに首を捻る綱吉だった。
*****
一方そのころ。ひとり残された雲雀は。
いまだ同じ場所に立ち、綱吉の立ち去って行った方向を見つめていた。
「本当、わけのわからない子だね、沢田綱吉。」
ビュンッ
トンファーを素早く一振り、何処へともなく仕舞い直し、呆れたように呟いた。
多少の手加減をしたとはいえ、あのスピードの攻撃を避けられる人間が…
――――弱いわけ、ないだろうに。
その矛盾にきづくまで