2009年WJ11号の袋綴じ番外編の内容を元にしています。ネタバレ注意!




沢田綱吉のバレンタイン



京子ちゃんとハルからバレンタインだと言って渡されたチョコは軽く2メートルくらいある巨大チョコ―――かと思いきや、その大きなハートが割れて中からコックコスプレのリボーンとビアンキが飛び出してきた。
彼女の手のひらには多分チョコレートケーキとおぼしき物体(しかしその色はカカオの黒茶色ではなく悲しきかな既に見慣れてしまった毒々しい紫色である)…言うまでもなくそれは―――、

「ポイズンチョコ出張サービスよ」
「ギャー!」

そう、ポイズンクッキングだ。慌て背を向け逃亡をはかるオレだけど、その瞬間後頭部に軽い衝撃が走りそしてガパッと頭に被さった何かによって視界が塞がれて転んでしまった。

「痛てて…なんだぁ?」

地面に膝をついたまま頭上の物を外してみれば、それは大きめの銀色のボウルで―――「逃げんな、ツナ」高めの声が背後から投げかけられる。リボーンだ。…どうやらリボーンが投げたこのボウルがヘルメットのようにオレの頭にジャストミートしたらしい。
…そうだよな、オレをオマエがそう易々と逃がしてくれるわけがない。ビアンキの料理に関してはオレというイケニエがなけりゃ被害に合うのはリボーン自身だ。特に本日はバレンタインデー。恋人達のイベント。ヤツの方こそビアンキの本来のターゲットだ。

「…てかなんでボウル!?」
「パティシエ七つ道具のひとつだからな」
「ぱ…パティシエ…?」

えっへん!と腕をくんで胸をはるリボーンの服装はどうやらコックではなくパティシエだったらしい。
そんなリボーンを頬を染めて見つめながらビアンキがうっとりと、

「今年はリボーンと2人一緒にチョコを作ったのよ…愛の共同作業ね。」

とか言っている。…ビアンキが料理中にリボーンを厨房に入れるなんて珍しいから(まぁそもそも普段はビアンキが厨房に立てばリボーンの方から姿を消すんだけど)これはリボーンの奴がなんか言ったな?

「愛はいつだって新しい刺激が必要…バレンタインだって毎年同じことの繰り返しではダメ―――流石は私のリボーン…言うことが違うわ」

やっぱり。


――――とか納得してる場合じゃなかった。


(リボーンのやつテキトーなこといって自分から矛先をオレにかえやがったなぁーーーーっ?!!)
「さぁツナ。あなたにあげるこのチョコレートは私とリボーンの愛の結晶――――心して、かっくらいなさい!」
「ひぃーーーぃッ!…し、死ぬ気で逃げ切ーーる!!」

これを仕掛けた張本人であるリボーンが死ぬ気弾を撃ってくれるはずもなく……オレは自力で死ぬ気の覚悟で全力疾走。

――――オレのバレンタインは今年も大変です☆(ちくしょうっ!/泣)





  *****





「はぁ…」

そして今オレは、とぼとぼと肩を落としながら力なく歩いていた。
結局、逃げ回ってる途中で騒ぎを聞きつけてオレのもとへ来ようとした獄寺君が遅ればせながらビアンキに気付いて卒倒し、ビアンキの注意がそっちに向いているうちに逃げ切った。(ごめん獄寺君!…君の犠牲は忘れないよ!)
だけど、ビアンキのポイズンチョコから逃れたのは良いものの、京子ちゃんのチョコも一口も食べれず――…がっかりだよ。

…というのも実は、逃げ終わって一息ついた後、そういえばビアンキが出てきた外側のチョコの殻は京子ちゃん達の作だろうと思い至って、せめてそれは食べたいと急いで戻ってみれば…――そこにはチョコは綺麗に欠片も残っておらず。
居たのは手と口まわりをベタベタの真っ黒に染めてポッコリお腹を膨らませて寝ころがるランボと、こちらも丸いお腹で満足げにニヤリと笑うリボーンの姿…。
京子ちゃん(とハル)のチョコレートはすべてリボーンとランボに食べられた後だったのだ――――…ああぁ。ガックシ。

オレが落ち込んだ気持ちのまま再び溜め息をつこうとしたその時、


「…ボス?」


小さな声に呼び止められる。
ボス―――オレをその呼び方で呼ぶ知り合いは今のところ一人しかいない。それは…

「―――クローム」
「うん、ボス」
「…うわぁ?!!」

その名前を口にしながら俯きがちになっていた顔をあげたら、想像していた顔と声が、予想以上に近い場所から飛び込んできて思わず声を上げてしまう。
…顔を上げてすぐ目の前で――いつの間にそこに来たのか――眼帯の少女が佇んでいた。

「…なっ…!?(ち、近っ!?)」
「? …ボス…?」

突然叫んだオレに不思議そうに小首を傾げるクロームに(内心ではまだ心臓がバクバクいってるけど)なんでもないと誤魔化しながらさりげなく一歩分距離を取る。
そして、彼女の方から声を掛けてきたということは何か用があるのかなと思ってクロームの次の行動を待ってみるものの、しかしクロームはそのまま、じー…と無言でオレを見つめ続けてくる。………ど、どうしろと?

「……………」
「……………………」
「……………………………」
「…………あの。クローム…な、何かオレに用なのかな?」

とりあえず沈黙に耐えきれなくなったオレが訊ねると、クロームはふるふると小さく首を横に振って、「でも…」と呟いた。

「でも…ボス、今、たいへん…?」
「え!? そんなことないよ!!」
「…でも………さっき、元気なさそうだった…」
心配そうに訊ね返されて即座に否定すれば、そう言われて――“さっき”とは声を掛けた時のことだろう。どうやらあの様子を見て心配してくれたらしい――慌て更に否定した。

「いやっあれはっ、ちょっとチョコが――(…って!まさか、京子ちゃんのチョコが食べられなくて落ち込んでましたなんて言えるはずないし!)」
「…チョコ?」

慌て過ぎて馬鹿正直に話しそうになり余計に慌てしまう。
そんなオレの言葉にクロームは、「ボスはチョコ、好き…なの?」と呟くと、俺が何か言うより先に、

「じゃあ…はい、これ…あげる」
「え、あ、ありがとう」

手のひらに収まるくらいの小さな正方形の包みをもらった。話の流れからしてこの中身はチョコレートだろう。…これがオレの今年の初チョコということになる。
(うわ!…深い意味なんかないんだろうけど…なんか恥ずかしいな…)
顔が赤くなってないか心配だ。

「…骸様も…チョコ、好きなの。」
「へ、へぇー(…あの骸が…意外だ)」
「うん。…それで…今日はバレンタインだから…私も骸様にチョコあげたの…」

クロームの話に相槌を打ちつつも内心知らされた骸の意外な嗜好にちょっと驚き半分微笑ましさ半分な気持ちになっていたオレは。
…けれど、その後彼女が嬉しそうに見せてくれた『骸様にチョコレートをあげた方法』に、

(お供え物ーーーーーー!?)

と突っ込みをいれることになったりする。
さりげなく(もないけど)どくつな推奨なバレンタイン小話でした。
…まあなぜか小話というわりに普段の小説とおんなじくらいの長さがあるんですが。普段の文章量が少なすぎr