風を追い抜く
不慮の事故というか咄嗟の判断というか、まあ偶然に偶然が重なるかたちで無断で使用してしまった人様のポケモン。

湖での出来事の後、一旦家に戻り母に事のあらましを説明し終えたヒカリは、座っていたリビングの椅子を引いて立ち上がる。

「…やっぱり今すぐ返しにいってくるよ。」
「えぇ、いってらっしゃい。きちんと事情を話して謝れば博士もきっと許してくださるわ。」

自分を見上げ擦り寄ってくるナエトルの愛くるしさに思わず抱きしめ、ずっと一緒に居られたらと思う。けれどそれでも、他人のポケモンである以上主人の元へ返しに行かなければいけない。(もし返さなければ立派な犯罪になってしまう。)
行動ははやい方がいいに決まってる。長く一緒にいればその分だけ離れがたい気持ちは強まるばかりだろうから。
決心の揺るがぬうちにと、ナエトルをモンスターボールに戻し、早速ナナカマドポケモン研究所があるというマサゴタウンに向かおと、ヒカリが玄関に足を向けたその瞬間、

「あ! ちょっと待って〜!ヒカリ」

母アヤコの明るい声が引き止めた。

「マサゴタウンまでとはいえ、冒険みたいなものでしょ!せっかくだからこれ履いて行きなさいな。  これならあっという間よ〜!」

そう言って差し出されたのはランニングシューズ。今、ポケモントレーナーの冒険の友として巷で人気の商品だ。
売り文句は「風を追い抜く爽快感」
発売開始当初は、耳タコになるほど繰り返しお決まりの商社テーマソングとともに当時の人気No1トレーナーがその売り文句を喋るテレビCMが流れていた。

勿論ヒカリも、いつかランニングシューズが欲しいと思っていたので、これは嬉しいプレゼントだった。

「わぁー!お母さんありがとう!」

笑顔で受け取ったヒカリは、しかしその靴の可笑しな点に気がつく。

一般に発売されているランニングシューズは、多少デザインや色に種類はあるものの“シューズ”というだけあって短靴ばかりだ。
なのにアヤコが差し出したランニングシューズは一般に見掛けるそれとは違い……なぜかピンクのロングブーツ――それも色から形まで全て現在ヒカリが履いているものと同じデザインの――だった。

(あれ…?)

ちょっと変だなと首を傾げるヒカリの前で、しかしアヤコは何でもない様子でランニングシューズの使い方を説明している。
そんな母の姿に(まぁ気にするほどのことでもないよね。)と思い直した娘は、靴を履き替え今度こそ、マサゴタウンに向けて出発した。



幼馴染みの少年に同じことを指摘されて、再び疑問に思うのはまだしばらく先の話。






  *****

「なぁーヒカリ。そーいや大分前から気になってたんだけどさー」
「えー?なぁにぃ?」
「オマエのそれ(ランニングシューズ)ってどこで買ったんだ〜?」
「え〜?お母さんから貰ったんだけど。 なんで?欲しいの〜?」
「んー、つかそんなデザインのやつ見たことないからさぁ…」
「……あれ?そういえばそーだね。」

ふたりで首を傾げ合ってみても答えは出る筈もなく、話はそのうちに違う話題に移っていった。

非売品あるいは特注。
たぶん入手経路はアヤコママのコンテスト関係のコネ…とか?

SSのつもりがチョット長くなったなぁ。…とてもくだらないネタですいません(苦笑)
ブーツのことは管理人がダイパ初プレイ時からずっと疑問に思ってることなのでした。